取締役の特別背任行為

会社法960条では、「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と規定しています。
具体的には、会社の資金を取締役が私用で使ってしまったり、他の会社や個人の為に資金提供してしまった場合等が該当します。
私が経験した珍しい事例として、A社、B社共に500万円ずつ出資する資本金1000万円の会社Xを清算するケースがありました。
A社が1000万円融資、B社が500万円融資している状態で、清算にあたり融資1500万円(1000万円+500万円)を出資の割合で按分することにした場合、各社平等に750万円ずつ負債を負担することになり、B社が会社Xに250万円を融資し、会社XがA社に250万円返済する取引があったとします。
この時に注意が必要なのが、会社法960条(取締役の特別背任行為)です。上記のケースでは、B社はお金が戻ってこないことを知りながら、会社Xに250万円を融資しており、故意にB社に損害を与えているため、取締役の特別背任行為に該当する可能性が高まります。
当初、双方に知識が無かったため、当たり前のように話が進んでいましたが、会社法960条により刑事罰を科される可能性があることが判明し、融資額を調整をせずに清算することとなりました。
特にオーナー企業では、会社の資金を自由に使っている傾向が見受けられます。基本的に「被害を受けた会社を代表する取締役」が提訴するため、オーナー企業の代表者が処罰されるケースは少ないと思われますが、非親告罪のため、第三者が告発し刑事事件化することもあるようです。会社資金の使用、流用は、刑事罰が科される可能性があることに、十分ご留意ください。