役員になったのだから勤怠簿を出したくないと主張してきた場合の対応

中小企業では、社会的な常識やモラルが少し欠けていても、その人が居なければ仕事が回らない、顧客に顔が利く等の理由で厚遇せざるを得ないというケースもあるかと思います。今回の登場人物はこの方が社員の頃から知っているのですが、出張手当を水増しして請求している事実がありながら、この方がへそを曲げてしまうと業務に支障が出てしまうため、一定期間黙認してきた経緯がありました。
主張が強く、苦肉の策として役員にまで昇進させたところ、役員なのだから勤怠簿を出したくないと主張してきました。もしそれを容認したら、実際に仕事をしているかどうかの確認ができなくなってしまいます。出張手当を水増しして請求し続けた経緯があり、出勤簿を出したくない主張を認めたら、仕事をしなくなってしまうのではないかとの不安がよぎりました。
そこで、理由として説明したのが以下2つの条文です。
これまで、労働時間の把握は法律に定められていませんでしたが、2019年4月に法制化され、労働時間の把握は法的な義務となりました。
労働安全衛生法第66条の8の3
事業者は第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
労働安全衛生規則第52条の7の3
第1項法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
第2項事業者は前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
幸いにも、この方は使用人兼務役員(労働者の立場がある役員)であったため、法律を順守する必要があることを盾に、勤怠簿を出したくないとの主張を断念していただくことに成功しました。