固定残業代の導入 ヒヤリハットした苦い思い出

中小企業では、残業代の支払いをしていない会社もあると思います。残業代を支払っていないのであれば、それは未払い残業代であり、労働基準監督署に入られた際は、過去にさかのぼって残業代の支払いを命じられます。とはいえ、残業代を支払える状況にない会社もあるのではないでしょうか?
今回は、固定残業代を導入することで、未払い残業代状態を解決?した実例をご紹介します。
ある建設会社でのお話です。残業代を一切支払っておらず、休日出勤も月に2日しか支払っていない会社がありました。そこで総務部長と相談し、苦肉の策として、全社員の同意を得て、基本給の内訳を「基本給」と「固定残業代」に分ける取組を提案しました。そして、基本給を、基本給と月45時間分の固定残業代に分けた内訳を作成し、総務部長に社長が全社員と面談し、同意を得てもらえるように依頼しました。
その後、スケジュール通り取り組みが進捗し、固定残業代へ移行しました。ところが後日、「勝手に固定残業代へ移行されてしまい危なかった」と社長が話しているというのです。なんと、社長は社員との面談を一切せず、同意を得ないまま固定残業代へ移行していたことが判明しました。そして社長はそれを私のせいだと思っている様子でした。
私は青ざめ、己の認識の甘さを後悔しました。総務部長を通じて社長に全社員の面談と同意を依頼した結果、社長がことの重大さを理解せずに面談を放置する一方で、取り組みはスケジュール通りに進んでしまっていたのです。
トラブルに発展したらどうしよう?と私は頭を抱えましたが、「基本給の内訳が変わるだけで総額は変わりません」という趣旨の丁寧な通知文を作成し配布していたこともあり、誰一人クレームが無く、5年ほど経過した今では固定残業代が昔からあった制度かのように定着しています。
既存の基本給を基本給と固定残業代に分けることは、労働条件の不利益変更であり、社員一人一人の同意が必要です。金銭に関わることであり、より慎重な対応が必要な場面でした。今振り返ると社長が全社員と面談し、説明して同意を得ることは、相当な困難が予想されます。反発する社員がいるかもしれない状態で、二の足を踏んでしまうのも当然と言えます。肝となる面談と同意の部分を丸投げしてしまったことが過ちであり、本来であれば、面談のサポートもするべきでした。
奇跡的にトラブルには発展しませんでしたが、苦い思い出となる出来事でした。