退職金を多く払ってしまった場合の対応




 退職金を多く支払ってしまったことが判明し、既に社員が退職してしまっていた場合、果たして返してもらえるか、不安に思うのではないかと思います。今回は、その際の対処方法を実例を交えてお伝えします。 


ある日、懇意にしている社長より、「定年退職より、自己都合のほうが退職金が高くなってしまう」という相談をいただきました。「エッ?」と思い、退職金規程を確認すると、計算間違いをしていることが発覚しました。


「年収」×「勤続年数係数」×「自己都合退職係数70%」
で計算するところ、


「年収」×「自己都合退職係数70%」
で計算して支払っていました。


退職金規程全文を読めば、流れから、「年収」×「勤続年数係数」に「自己都合退職係数」を掛けることが読み取れるのですが、自己都合退職の条文だけを読むと、間違って読み取れてしまう、怪しい規定となっていました。


そこで、早速退職金を返してもらう対応をするわけですが、私は2つのアドバイスをさせていただきました。


1つは、過払い金返還請求手続の流れ、「まず通知を出して、ダメであれば内容証明郵便、それでもダメであれば訴訟になります。そこまでいくと、私では対応できないので、弁護士に依頼することになります。」ということ。


もう1つは、「退職金が間違えであることを本人に伝えて記録に残してください。」ということ。
なぜこの対応が必要かというと、民法第703条では、不当利得の返還義務について、相手が善意の場合は、その利益の現存する限度(現存利益)のみ返還義務を負えば良いということになっているからです。ちなみに善意とは、その退職金額が間違っていることを知らない状態をいいます。


例えば退職金を500万円多く支払ってしまった場合、退職者が気が大きくなって、遊びやギャンブルなどでお金を散財してしまった場合、退職金が100万円しか残っていなければ、100万円だけ返せばいいですよ、という民法上のルールです。


もう少し詳しく説明すると、退職金を借金の返済や生活費など、必要な出費として使ってしまった場合には、「自分が持っている財産の減少を免れた」という点で利益が残ります。なので、あくまでも遊び等で使ってしまった場合にだけ、残った分だけ返せば良いということになります。この点は、トラブルになりやすいので、訴訟を避けるためにも、早めに退職金額が間違いであることを退職者に伝えてあげましょう。


今回のケースでは、通知文だけで一切のトラブルなく、340万円程度の過払い金が返還されました。


退職金等、誤って多く支払ってしまった場合は、民法第703条があることを念頭に、すぐに誤って支払ってしまったことを本人に伝えてあげましょう。伝えた後は悪意(間違っていることを知っている状態)になりますので、その後に遊び等で使われてしまっても、返還請求をすることができます。

(参考) 返金依頼通知書