「実はハードルが高い、試用期間満了による解雇」をトラブルなく進める方法




 試用期間中であれば、いつでも解雇できると考えている方がいるかもしれません。解雇される側も同じように考えている方が多いと感じています・・・が、実は普通の解雇と同じくらい試用期間中の解雇のハードルは高いです。


ある日、ある会社役員より、「第二新卒で採用した社員の仕事ぶりが悪く、試用期間満了で解雇したい」という相談がありました。


労働契約法第16条では、解雇について、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとみとめられない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。


本採用後の解雇と試用期間満了による解雇(本採用拒否)では、後者は前者よりは、よりゆるやかに解約することが認められていますが、どちらもそれほどハードルは変わりません。解雇に必要な要件はどちらも同じです。


 ちなみに、解雇とはどういうことでしょうか?
解雇とは、会社が一方的に雇用契約を解約することを言います。


民法623条では雇用契約について、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を約すること」としています。


 会社は、労働の提供を受ける(債権・権利)代わりに、報酬を支払う(債務・義務)という雇用契約を労働者と交わします。会社は、一定の労働の提供を受けることを期待して、労働者を雇います。


もし、労働者の仕事ぶりが悪く、会社が期待していた労働の提供を受けることができない場合は、労働者による債務の不完全履行となり、会社は債務不履行を理由として、労働者との雇用契約を解約することができます。


そこに立ちはだかるのが、先ほど紹介した、労働者を守る労働契約法第16条です。
なぜならば、労働契約法(特別法)は民法(一般法)に優先するからです。
たとえ労働者による債務不履行があったとしても、このハードルを越えないと会社は雇用契約を解約(解雇)できません。
そして、このハードルを越えているか、解雇が正当かどうかの判断は、最終的には裁判所でなされます。


話が難しくてすみません。ここまでは大丈夫でしょうか?


 では、どのような状態であれば、労働契約法第16条をクリアすることができるのでしょうか?


解雇をするときは、訴訟になることを前提として対応をしていく必要があります。
能力・適性がないことは、本採用拒否の理由として、十分合理性がありますが、訴訟になった場合には、それを立証する必要があります。


今回のような第二新卒の社員の場合は、新卒とほぼ変わらない人材です。仕事ができないことが当たり前の状態とも言えます。指導をすることで、初めて戦力となっていく、それを承知の上で、会社は雇用しているものと思われます。


したがって、繰り返し指導をしても、改善の余地がない場合に、はじめて解雇が認められます。
そして、そのことを、具体的な状況が分からない、第三者である裁判官に理解してもらうための証拠が必要です。


例えば、適正な目標を設定し、十分な配慮をしながら繰り返し指導し、時間も十分に与えて仕事をさせるなど、能力の有無が目に見えるような工夫をし、その経過を証拠として記録に残します。
そのような十分な配慮をしてもなお、仕事ができるようにならないのであれば、能力、適性がないとして、本採用を拒否できる可能性が高まります。


難しい説明となってしまい、すみません。ここまでも大丈夫でしょうか?


 ようやく本題です。
社会保険労務士の言動として、誤解されてしまうのではないかという不安が残りますが、ここからは、実務的なお話をすすめていきます。説明ではありません。あくまでも事例紹介となります。


文章にすると、分かりずらいので、箇条書きとして紹介します。


①本採用拒否の通知をしました。
②本人と面談し、本採用ができない旨を伝えました。
③解雇予告手当として、給与1か月分を支払うことを伝えました。
④本採用拒否による解雇ではなく、(本人の将来のために)合意退職できる旨を伝えました。
⑤本人と合意し、「合意退職する」旨の退職届を受領しました。
⑥合意後、すぐに解雇予告手当を支払いました。


以上のような流れで、トラブルなく解決に至りました。
本人は、本採用拒否が今後の就職活動に響いてしまうことをとても心配していました。
私は、本採用拒否されたことは、自分で言わない限り、ほかの会社に伝わることはない旨を伝えましたが、本人の強い希望で、本採用拒否ではなく、合意退職することとなりました。


社員自らが望んで合意退職をしたことで、また、「合意退職する」旨の退職届を受領したことで、訴訟になるリスクはなくなりました。


補足ですが、解雇予告手当は、税法上退職金扱いとなります。
退職所得控除として、40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円、20年超勤務の場合は別計算)が、解雇予告手当から控除されますので、ほとんどの場合は何も引かず、満額支払うことになります。
給与ではありませんので、誤って、給与の源泉所得税を引かないようにご注意ください。

(参考)本採用拒否通知書